獄寺隼人は本人が思うよりもずっと天邪鬼で偏屈で、周囲の人間に「ウワッ!コイツめんどくさ!」とか思われている。今では安定の三浦ハルが傍にいるので大丈夫だが、もしもハルがいなかったら、獄寺に長続きする恋人など生涯現れなかっただろう。いくら彼のスペックが高くても、女たちは彼の元を早々に立ち去ったはずだ。女が一番苛つくタイプの天邪鬼さなのだ。
 ちなみに。
 獄寺をツンデレなんだという奴もいるが、彼は二人きりの時でも決してデレないのでそれは嘘である。彼が彼女にデレたり甘やかしたり可愛がるのは決まった時だけだ。
 彼女が泣いてるとき。
 具合が悪いとき。
 それと、彼女が寝てるときだ。
 ハルはとにかくよく寝る娘なので、三つ目が上二つよりも確実に高い頻度で行われている訳である。そして本人は勿論そのことを一切知らない。獄寺とて意識がないからこそやっている。つまり、獄寺隼人はメンドくさい男なのだ。
 もう一度言う。メンドくさい男なのだ。


*****



 ――どんなに疲れていても、この光景さえあれば満ち足りる、と獄寺隼人は思う。

 既に真夜中。サイドボートのランプの灯りも一番弱くボリュームを絞ってある。ほの淡い照明の中――身体を丸めて眠るハルの寝姿ほど好ましいものはない、と獄寺は完全に捕食者の目つきで相手を見下ろした。

 “事後”、ハルはとにかくよく眠る。彼がもう二、三回したいといくら言っても「残念ですが、お断り〜」とCMソングのように歌い、獄寺の頬にキスした後はベッドにくたりと倒れ込んでしまうのだ。
 忌々しい気分は長く続かない。獄寺隼人はハルの身体のパーツや比率を「神レシピ」と呼ぶくらいにこよなく愛しているので、それをじっくり観察できる時間は何はともあれ非常にありがたいのである。
 ハルとセックスするのはメインの肉料理を食べるような行為で、それがなければ死んでしまうが、事後にハルを視姦するのも甘いデザートのようなもので、それがなくとも死んでしまう気がする。何せハルが起きているときはクールぶらなければならないので、じろじろ眺めるなど言語道断なのである。
 ――さて、今ほどの獄寺の狼藉がよほど堪えたのか、その日のハルは下着も身につけないまま寝入ってしまった。寒いと可哀想なのは重々承知しているが、上掛けをそっとめくる行為には毎回非常に興奮してしまう。
「……」
 まろやかで白くて、どこもかしこも小さくて。ハルの身体は獄寺に与えられた豊穣の神からの贈り物だ。見下ろしながら、ただそう思った。

 一番いい声で啼くのは感じやすい小ぶりな乳に触れるとき。女の胸は大きくなくて良いとつくづく思う――ハルの胸は彼の手のひらに丁度よく収まり、先は淡いピンク色。どれだけ蹂躙しようが、いつまでも処女のような初々しさがある。質感が極上なら感度も極上、下乳の膨らみがけっこうあるのでなかなかよく揺れる。
 想像したら下半身が疼いて、思わず手を伸ばしそうになったが何とか堪えた。一度触れたら止まらなくなる。それにそういう夜這い系のAVみたいなのはクールな獄寺には似合わない 。その先端を噛んだり舐めたり、指先で何度も固くしてやれば色が濃くなり、ハルはマタタビ酩酊状態の猫そのものになってしまうのだが……。
 溜息を吐いて、獄寺は上掛けを静かに慎重に、そして完全に取り払った。
 彼女は足の爪の形からして完璧だ。小さな桜貝のような爪先が可愛くて、そこを舐めるのもかなり好きだ。
 小さいといえば爪だけでなく、小粒の真珠っぽい歯もいつもつやつやと健康だ。獄寺の肌を甘噛みするハルの行為など、子猫にじゃれつかれているようで堪らない気持ちになる。彼は彼女の歯列を何度もなぞるのが好きで、なまじ本人よりも歯並びに詳しく、目を閉じていても舌先でどこの歯なのか分かるくらいだ。

 下から順番に視線を這わせていくと、締まった足首と、細くてしなやかなふくらはぎが目に入った。元気よく跳ねる足は、太陽の下で見るとやんちゃそのものなのだが、こうして夜にそのラインを鈍く照明に当てると、やたら淫靡なものに見える。獄寺が足フェチだったら前戯の大半をココに費やしていたであろう。特にハルの柔らかい太ももは、獄寺にとって聖域と呼べるシロモノだ。
 ――まず白い。とにかく白く、かつ有りえないほどすべすべの手触りなのだ。赤ん坊の肌レベルにやわく、誰にも踏み入られていない雪原そのものである。二の腕の裏の部分もそうだが、跡をつける度に幼い子供を犯してるような気分になってしまう。が、それがまた興奮するのでやめられない。しかもハルはそこも感じるらしく、持ち上げて本格的に吸いあげればすすり泣きながらどんどん身体をほぐしていく――。
「……だめだ」

 またしてもそちらの方へ意識が向かい、獄寺は天を仰いだ後、胡座の上で頬杖をついた。当たり前のことだが、ハルを観察していたら身が持たないなんてものでは済まなくなってしまう。だがそれでも、寝こける三浦ハルの全身から漂うふんわりとした優しい匂い、あまやかな空気――安心した表情を見るのは心のごちそうなのだから仕方がない。エロと庇護欲でメーターが揺れまくるリスクを押して、獄寺はハルの小さな尻に視線を移した。
「……」

 ハルの尻は標準に比べてもかなり小さい。形がよくて表面の皮膚が一番柔らかい部分なのも知っている。ハルはよく転ぶ女なのだが、まず真っ先に青あざが出来るのはここなのだ。  こいつ、子供とか産めんのか?まさか生んだら死ぬんじゃねえだろうな、などと常日頃、実は密かに心配している。
 男としては三大好きな部位と言えるだろうその部位、獄寺も例に漏れなかった。ヤらしい気分になって、膝の上に乗せて両手で何時間も揉みまくったこともある。ハルはそれだけで顔を真っ赤にしてあちこち濡らしまくって彼の言葉責めの被害にあい、ぐずぐず泣いてその後、達するのが非常に早かった。彼の肩に顔を押し付け、嬌声を堪えて震えるハルの姿は今でも目に焼き付けすぎて、いつでも再生できる状態である。
(あの時は洪水かと思うほど濡れてたな……)
 はあ、と彼は熱い溜息をついた。いちいちセックスを回想してたら視姦なんてやってられないのだが、それでも止まらないのが獄寺の変態性。毎晩このジレンマで疼くのが最近いっそ楽しくすらあるのだから始末に負えない。
 ――ハルは、思えば反則過ぎるのだ。初心で子供っぽい身体と心の持ち主かと思いきや。よくよく開発すれば、めちゃくちゃエロい身体と心が隠れてる。夜はどろどろのチーズみたいになるのに、朝にはアイスクリームをパクつくような能天気な女だし。甘くかすれる嬌声の破壊力も半端じゃなし。
「……」
 まだ奥が熱いであろう幼い秘部などは眺めたら即ダチなのが分かっているから、獄寺はハルの下腹に視線を滑らせた。ここだけは10代の少年のようにいつも平らでぺったんこで、腰も冗談のようにくびれている。臍のあたりをくすぐるとハルはいつも必要以上に恥ずかしそうに甘い声をあげるのだ。そこを撫で回し、指で弄って……またゆっくり鼻先を張り詰めた胸元へ昇らせる。白い胸は火照ってまだらになって、尖った先端が舐めてほしそうに彼の前に差し出されて……ハルの切羽詰った呼吸の度に小さく震えて。
(まずい)
 二往復、三往復しても足りない彼女の身体を弄ぶ途中、先に根を上げるのがハルだった。泣きながらもう無理だと呟いて彼の首に両腕をかけてくる。獄寺はまずい、まずいと思いつつ、寝入ったハルの長い睫毛と唇に触れた。
 獄寺がこよなく愛するパーツの最たるものであった。その唇で強請られれば、抗うことなど不可能で。どんな愛撫の最中でもハルは怯えたら必ずキスをせがむので、獄寺も必ず応じてやっていた。ぷくっと膨れたそれと、奥の小さくて弾力のある舌。甘くて塩辛い舌を絡ませ、奥までとことん突き上げる。ハルはいつも、不安そうに彼の頭を引き寄せ、もっとキスをして欲しいと訴える。

 ハルの女の匂い。ピンク色の踵がもがくようにシーツを蹴り、彼の身体に身体を擦りつけてくる危険な所作……。
(――あ、)

 はっとした時には遅かった。心臓が痛いほど打っており、興奮状態で下半身が痛い。つうかムスコが痛い。
 今、ナカに入れたらどんなにか熱いだろうか。……あえて避けていたふっくらとした彼女の秘部を、あわい恥毛越しに見てしまえば、かなりやばい事態に陥った。
 誘っているような温かな双丘から縦筋に指を差し入れ、深く出し入れすれば簡単に受け入れ状態になるだろう。
 上にある粒をこねて、もっと柔らかくほぐして、何度も何度も摩擦を繰り返して……その部分に舌をつっ込めば、流石に彼女も疼いて目覚めるのではないだろうか。

 寝入ったハルの泣き濡れた双眸を思い返し、目の前の熟睡状態な彼女を揺り起こしたい衝動と必死に戦っていた――矢先。
「くしゅッ」

 流石に寒かったのだろう。ハルがぶるっと肩を震わせて淡く瞼を開けた。
「むにゃ……」
「……起きたか」
 ここで慌てふためいていたのは過去の(10代の)獄寺隼人である。ピンチには違いないが今の彼ならむしろ望むところの展開であった。この女、一度寝ぼけたら最後、翌日へ全く記憶を持ち越さないのである。
 獄寺は今までの視姦行為の余韻など毛ほども見せず、劣情など微塵も持たないような男の顔を素早く取り繕った。ハルがぽわんとした声で目を擦る。
「隼人さん。さむいです……」
「分かった、悪かった。抱いて寝てやってもいいぞ」
「……はひ?嫌ですよ……隼人さんかたいもん。ハルの服……どこですかねえ」
「……」
 ハルのこういう所がムカつくのだ。獄寺は自分が夢見がちとは決して思わないのだが、実は三浦ハル、始終甘ったるく恋人との触れ合いを望むタイプではないのである。舌打ちをこらえつつ、それでも寝ぼけたハルの顔を見れば塩コショーしてソテーして食べたいくらいに可愛くて仕方がなくなった。今まさにギリギリ状態の欲情を本人には綺麗に隠しつつ、何とか相手が寝ぼけている隙につけ込みたいものだ。
「ハル、バンザイしろ」
「う〜〜、んん……」
「バンザイ、だ」
「……はぁ。ばん、ざい、ですね」
 のろのろ起き上がり、素直に両手をあげたので満足し、ベッドの隅にあった獄寺のぶかぶかのニットを着せた。
「はひ……あったかい」
「ついでに、靴下も履かせてやる」
「あ〜〜〜。はい。よろしくですー」
 ちょこんと両足を揃えて彼の前に差し出してきたので、ゆっくり、丁寧にそれを履かせてやる。
 ちなみに、獄寺は彼シャツシリーズが好きすぎる男だ。今も彼のニットをぶかぶかに着込んだハルの姿が100万hitぐらいの破壊力で心のシャッターが追いつかない状態である。
「隼人さん……?寝ないのですか」
「いや、俺は……」
 これからお前とやることがあるんだが……。
「寝ましょうよー。ねむれ〜隼人さん、ねむれ〜〜」
 ハルが寝ぼけて抱きついてきた。そのまま胸元に頬をこすりつけ、背中に腕を回され横に倒される。
 腹あたりにあたる裸の乳のむにゅんとした感触と、さんざん汗をかいたあとにも香るハルのベビーパウダーの匂いに、思わずごくりと喉を鳴らした。

 不埒な手先が疼いて、伸びる。

 ――悪戯、したい。
 さっきみたいに熱くて甘い声で、喘がせて。蕩かした後、温かなナカに入りたい。躰を沈めて、何度も奥まで。

「隼人、さん……」
 そこで、むにゃむにゃとハルが呟いた。
 ぴたりと、手が止まる。
「な……何だ?」
「ハルは、以外と聡くて、貴方が思うよりずっと……気づいてなくも、ないのです」
 腕の中の小さな黒猫がふわりと口角をあげた。
「……?」
「ですから、どちらかというと……」

 えっちな視線より、えっちな行為の方が。

「ハルは好きだったり、しなかったりしますよ?」
「――」

「しせんで犯すくらいなら、さっさとしたらよろしいのでは?」

 ハルが獄寺の胸板にぺとっと頬を寄せたまま、そんなことを呟いて。若干、息を呑んでしまう。

「――ハル」
「はぁい」
「……じゃあ、……いいか?」
 バレていた羞恥とかより、この先のご馳走に目がくらみ、思わず相手の頬に手を当てて、上を向かせた。
「隼人さぁん……」
 ハルが甘い音程で応えた。彼の硬く張り詰めたそれをやわらかく包むように、ぴたりと腰にあてながら。
「……ハル」
 引き寄せる。濡れて尖った唇を重ねようと目を伏せた時……。
 にこっとハルが、それはもう愛らしく笑い声をあげた。

「残念ですが……お断り!」

「――」

 ――は?

 絶句する獄寺を悪戯っぽく見やって、鼻先にチュッとキスをかまし。

「お休みなさい。……ぐう。」

 あろう事か、三秒で寝落ちてしまった。

「……」
 残された獄寺は呆然としながら腕の中の女を見下ろした。見下ろして、呟いた。

「……あ、」

 悪魔か?こいつ……。

 どうやらハルは、そこまで非道な真似をしたとまでは、考えていない?
 悪戯が成功したとか、そんな次元なのだろうか。

 ――いや、まさかな。ここまでの付き合いを経ておいてそれはない。

 自覚なしか、ありか。
 悶々としながら、この先を強いることが出来ない自分に気づき、彼ははっとした。

 ――もしかして。

「俺……一生こいつに勝てねえ、のか……?」


 え、今頃気づいたの?と誰かの声が聞こえた気がした。

「……」

 健やかな寝息をたてる彼女の方から、聞こえたような気がする。


 ……気のせいであって欲しい。








あなたはおろかもの/2015.10.28







*あとがき*

※獄ハルで乙女(ギャル)ゲー妄想してみたんですが、

乙女ゲー復活男子
攻略対象:獄寺隼人
手懐けるまで血反吐を吐くほどムカつく不遜で理不尽、意地悪生意気高飛車キャラにも関わらず、一回落とした後は異常なほどの独占欲を示してくる。
貯金のようにどんどん愛情をこじらせていき、主人公(三浦ハル)のこと好きすぎな!っていう残念な感じにまで。メロメロを絵に書いたような甘甘ENDキャラとして終わる。

ギャルゲー復活女子
攻略対象:三浦ハル
元気いっぱい、単純一途に愛情を示してくる頑張る系片想い女子。ドジでハラハラ目が離せず、かつ暢気な子犬と思って舐めてしまうものの、
攻略後は小悪魔な素振りで主人公を翻弄しまくる謎のキャラ。それでもいつまでたっても初心くて無自覚で、可愛いは可愛いよ。
結果主人公が必要以上に振り回される形勢逆転ENDで終わるといい。



update : 2015.11.14