――ところでハルは、山本武とお酒の相性が良い。飲むペースやおつまみの好みが似ているのである。
 自家製のさつま揚げとか、ほろほろの湯豆腐とか、クリームチーズ添えのぬか漬け野菜とか。和テイストの居酒屋ならば二人の舌は十分満足できるので、よく利用している。
 ハルが酔うと猫がはしゃいでるみたいで可愛い、と大人になった山本はいつもさらりとイケメン風におだててくれる。そしてその横で毎度毎度、不細工なイタチが消化不良を起こしてる図だ、と彼女を貶めるのが獄寺隼人なのである。ハルは二人の飲みに付き合わされることが多いのだが、いわゆるアメとムチ状態で翻弄されてしまうので実はあんまり嬉しくない。酔いもすぐに回ってしまうので、程々にしたいというのが本音である。

 さておき、その夜は二人きりであった。
 飲み進めるうちに、その日もその日で「隼人さんってどうしてああなんでしょうかね?」というエターナル的な愚痴に行き着いてしまった。山本が上手いこと誘導してくるせいだと思う。
 お酒は甘いカクテル系ばかり、舌にふわりと漂う風味に相手の相槌が絶妙で、ハルはいつもほよほよと口を滑らせてしまうのだ。

「とにかく意地悪なんですよ。こんなにも長く付き合っているというのに、意地悪度がジェットコースター並に日ごと加速度を増し、留まるところを知らないんです」
「ふんふん、例えば?」
「甘いものを食べてると、頬をつねって「餅女」と呼んでくるんです。その日終日「おい、そこの餅」と呼ばれ続けました。ハルは一度もお返事しませんでした」
「ぽいな。多分、本人はそれが究極に気の利いたセリフだと思ってるな」
 こんなのは序章です、とハルはカクテルグラスをちびちび舐めた。
「「ポルチェッリーノ嬢」とニヤニヤ笑って二の腕をムニられたこともあります。知ってます?ポルチェッリーノって子豚って意味らしいですよ。ハルは三日ぐらい口ききませんでしたね」
「なるほどな。ところで、ムニるってのは何語だ?」
「えっと、いわゆるハル語です。隼人さんはすぐにマスターしてくれるので助かります」
「ああ、成程な。うんまあ、伝わるものはあるな。それで?」
 いつものことながら、彼は酔っ払ったハルのトロトロの愚痴を聞くのが楽しそうである。わくわくと母親におとぎ話をせがむ子供のようだ。ハルは満更でもない気持ちであらゆる情報公開を試みた。
「それで……隼人さんはハルがドジをする度、とにかく楽しそうに何かしら言うんですよ。つい最近は「アホの国の王位継承者」と恭しく名づけられました。ハルはその国の次期女王らしいんです」
 そんな国ありませんよね?とハルが心配そうに尋ねれば、笑って頭を撫でてくれる安定の山本武である。バーカウンターの僅かな灯りで焔のように輝いて見える黒目。狩猟犬のようにすっきりと怖い黒目だ。
「お前ら同棲して大分たつよな?獄寺は何で未だにそんなにお前のをいじめるんだろうな、ハル?」
「ですが、考えてみればそれ以外の関係性になったことはない気がします……」
 むむむ、とハルは思い返した。甘い記憶もたくさんあるのに、「隼人さんとの思い出アルバム」はいつも暴言とからかいと皮肉が複雑に混ざっていて、全然うっとり過去を回想出来ないのである。カクテルグラスに沈んでいたチェリーをもぐもぐ食べながらハルは呟いた。
「隼人さんはハルのことを、全然褒めてくれないのです。ハルは隼人さんがすごいなーと思ったときには結構褒めているのに。だから、ハルがこんなにも頻繁に家出をするのは致し方ないことなのです」
「そうだな。ハルに落ち度はないだろうな。俺はお前の味方だ。あんなやつ地獄に落ちればいい」
「あ、ええっと。落ちなくてもいいです。優しい時は優しいので……」
 うっかりかばってしまったら、山本が「それみたことか」とにっこり笑ったので、ハルは慌てて渋面を作った。

 その夜は五回目の家出の日であった。夏に台風が来るのと同じレベルで定期的に沸き起こる「家出衝動」。ハルはもう24才になるのに、その癖は年々ひどくなる一方だ。
 ハルの家出先は今回、獄寺が最も怒り狂う場所であったが、そんな事は知ったことではない。実際、無理のない理由があったと思うのだ。

 ――ずっと一緒に住んできて、とある朝、目が覚めたら指に綺麗なポムグラニットのリングが嵌められていた。
 不思議に思って「これ何ですかね?」と寝ぼけて問えば軽くキスされ、「三浦ハル、お前は俺と婚約したんだ」と言われた。
「……はひ?」
 まばたき返したら、相手はもう出かける支度を始めていて。問い返す暇もなく、部屋を後にする黒いスーツの背中だけが瞼に残って。
 で。でだ。
 ――で、その後三週間放置された。
 帰ってきてからいきなり「で、親に挨拶しに行くから、お前日程決めておけ?」ときた。
「え……」
(え?)
 説明もなくて、ぽかんとするハルを置いて、またしても忙しそうに獄寺はどこかへ行ってしまった。おそらくハルより大事な十代目のことですこぶるタイトなスケジュールなのだろうが――ない。
 いくらなんでも、これはない。
 思い返せば思い返すほど、どんどん、むらむら怒りがこみ上げてきたハルは熱したスチールのごとくいきり立ち、またしても家出を決行したのだった。指輪は外して、お財布に入れておいた。もう二度とはめてやるものか、と「彼女」を睨みつけたのも数時間前のことであった。


 ――で、現在。
 内緒にしようとしていたのに、気づけば家出の理由までやすやすと吐かされてしまっていた。

「隼人さんはプロセスを大事にしてくれません。幾ら何でもひどすぎる気がしなくもありません。山本さん、ハル間違ってますかね?」
「いや、実際ひでえと思う。ただなぁ、お前は結局許すんじゃねえ?今までもこれからも、ハルはあいつに甘いし」
「そんなこと、絶対にありません!」

 三浦ハルがグラスを叩きつける、「クダまき酔っ払い」のポーズをしてもうまくいかない。所詮は華奢なカクテルグラスなのだ。山本が上手にそれを取り上げて、「な、ハル」と妹 をあやすように愛情込めて頬に触れてきた。
「ハルは毎日のように家出してるし、矜持をへし折られてんのに、俺たちが黙認してんのは何でだと思う?」
 酩酊でくらくらしてるハルは、それこそ猫のように気だるげに瞬いた。
「へ?」
「俺もツナも、黙認してるのにはそれなりに理由がある。それはな、見ててわかりやすいほど、獄寺隼人がお前に惚れてるからだ」
「……。はひ」
 心底ぴんとこないことを言われた気がする。思いっきり怪訝そうなハルに苦笑し、山本は言う。
「でなきゃ俺も、お前をあれだけ可愛がってるツナも許すはずないだろ。お前以外には結構分かりやすいんだぜ、あいつ」
「えー……。そんなの、嘘です」
「嘘じゃねえって。馬鹿だな、ハルは」
「どうせばかですよ……」
 馬鹿と言われてハルはじわっと涙を浮かべた。これはもう、大分酔っている証拠だ。
 潤むハルの瞳に気づき、山本は鷹揚にからから笑った。ここが獄寺との違いである。あのミスター意地悪はハルの涙を見ると絶句&オロオロしてばかりだ。
「はは、泣くな泣くな。そんなに悔しかったんなら婚約なんてやめちまえ。ツナもほっとするだろ」
 最近お前の父親気取りだからな、と冷酒を煽る山本の姿がだんだんブレ始める。今にも寝入ってしまいそうだ。
「……こんやくなんて、しません。ハルはハルを愛でてくれるひととしか、こんやくなんてしないんです」
「そっか」
 呂律の回らなくなったハルを見て、山本もふと憂い顔を見せた。可愛がってた子猫を里子に出すような感じ、のアンニュイさだ。
「そっか。じゃあ、ハルは婚約するのか。早えなあ」
「??だからぁ、おことわりれすと……」
 頬を染め、ほろほろに酔っているハルは目を吊り上げて相手に食ってかかったが、まるで意に介されない。
「はいはい、どうどう」
 闘牛を容易くかわすような熟練の手つきでいなされ、ポケットのハンカチで鼻を「ちーん」とまでされた。どうやら、24才の妙齢の女性扱いはされていない模様。
 とは言え、山本武はかなり格好よく、その夜は決めてくれた。ハルの頭を撫でながら、こう言ってくれたのだ。

「なら、分かった。ハルの敵は俺がとってやるから。お前は安心していけるとこまでいってやれ」
「はひ?……」
「お前にいつか、教えてやるな。ほら、寝ろ」
「……?」

 それはある意味、約束であった。ハルはうとうとしながらも撫でられた大きな手が気持ちよく、素直にすとんと瞼を閉じた。「じゃあ……きたい、してます」と夢現にお返事をして。
 ――その後は記憶にない。

 目覚めた時、何故か獄寺隼人の腕の中ではあったが、いつものように怒られなかったハルである。
 ハルの不平不満を聞き出し、躊躇いがちに頬などあやしてくれる手は優しかった。――が、何故か取っ組みあいの喧嘩をしたようなぼろぼろな姿であった。

 山本武が相手だったというのは、後になって知った。


*****


 ――というか、そんなこんなで。

 六月にハルが嫁に行くことになった。

 雨がザァザア降るとある夜。山本武に呼ばれて、三浦ハルは薄暗いバーカウンターで突っ伏して寝ている獄寺を迎えに、その店に現れた。
 店の前にはレクサスが停車中。獄寺の直属の部下が車を出してくれたのだ。「うたた寝して待ってます、ハルさん」と気障なウインクをしてくれたので、お礼に手持ちのお菓子をごっそりあげたら笑われてしまった。
 ハルは獄寺の部下達から『猫型天然癒し系』などと訳のわからない二つ名を頂いている。

「……で、山本さん。どうしてハルを呼び出しつつ、隼人さんをここまでベロベロにしてしまったのですか?」
「前に約束したろ?お前の敵は俺がとってやるってな。じゃーん」
「はひ……」
 そんな……日頃何かと格好いい山本さんに「じゃーん」言われて、どんなリアクションを返せばいいのやら。
「えっと。ここにいる隼人さんがどうかしましたか?」
 ハルは眠る銀髪の青年を見下ろした。目の下の隈がひどければひどいほど、シンプルなスーツとシャツ姿でいればいるほどかえって際立つ、神話に出てきそうな不届きな美貌の持ち主を。
 彼が彼女と「いい仲」だなんて、この店中の誰も信じないだろう。血統書付きのパンサーと雑種の呑気な黒猫の、不釣り合いな組み合わせだと思う。

「これがお前への婚約祝いだ。獄寺にバレたら絞め殺されるだろうがな、俺はハルの味方だっつう事を証明したかったわけ。な、見ろよこれ」
「はあ……」
 指し示されたのはただのペーパーナプキンだ。カウンターで寝こける獄寺の周りに乱雑に散らばっている。促されるまま覗き込むと、見たこともない複雑な数値がびっしり書き込まれていて、ハルは首をひねった。
「何ですか、これ?」
「獄寺と飲むようになってから数年経つが、毎回この紙ナプキンで終わる。俺には分かんねえけど、ここには何と、お前の個体情報が書かれているらしい」
 山本が含み笑いでそんな事を言う。ハルは「へ?」と瞬くのみだ。
「いちいち俺も覚えてないんだけどな。酒が入ると獄寺はお前の話しかしねえ。最初に聞いたときはまだ二十だったな。「ハルの足の爪の形が綺麗すぎて死にそうだ」と酔った獄寺は確かに言った」
「……は、はひ?」 「だからな。酩酊した獄寺は毎回、そう言ったら後はそれを数式にして、カーブの角度がどうとか、意味わかんねえこと言いながらこうやって紙ナプキンに書くわけだ。お前のパーツのあらゆる部分を」
「へ……な、な」
 ハルは一気に動揺を隠せなくなり、その散らかった紙ナプキンを再び見つめた。科学式とか数学式とかよく知らないけれど、なんか複雑なグラフやそれっぽい方程式が細かく小さく書かれているのは分かる。インクは滲みくしゃくしゃで、読めるかどうかは分からないけど。
「しかも、毎回だぜ?「ハルの腿の柔らかさがやばい」とか言い始めて「見てろ、証明してやる」つってな。他にも論文形式のもあって、テーマは「ハルの気の強さ」とか、「慈愛とそのアホ可愛い性格の真髄」とか様々な。あいつはむっつりだから、酔うと隠してたそういう本能が出るんじゃねえかって、いつもツナと笑って話してる」
「え、あの。その……そんなこと、信じられないというか」
 っていうか周知の事実なんですか、これ?っていうかややえっちじゃないですか、それ?
 耳まで赤くしたハルの反応に気を良くしたのか、山本武はニヤついて近づいてきた。
「しかも、翌日はなんも覚えてねえから俺たちも迂闊にからかえない訳だ。こいつお前の躰、キモいほどに観察してるぞ。ハルの肌の白さと弾力が遺伝子レベルでどーだとか、ハルの関節が全部ピンクなのは染色体レベルであーだとか、瞳の斑点が雄受けする奇跡の結晶なので忌々しいとか。唇の形とか、声の良さとかも何か言ってた」
「は、はひ……山本さん?何か、顔意地悪くないですか?」
 ハルの反応見て楽しんでるでしょう!と目の前の相手を睨めつけるも、ますますにっこり笑うだけだ。
「今日は「あいつの耳の形は、完璧に女王クラスだ」で始まった。で、その耳のアーチ部分の数式をこうやってすらすらと書いて、しかも途中で何度も書き直して、やっと満足して落ちたからお前を呼んだんだ」
「あの……山本さん。もう勘弁してもらえないですか……」
 ハルはもう羞恥に消えたいような、イジメっ子婚約者の獄寺隼人の寝顔をまともにみれないというか、とにかくぐるぐるした心境である。
 山本は悪びれなかった。 
「分かったか?あの日俺が言ったこと間違いじゃねえだろ?獄寺の中じゃハル、お前は女王様レベルってことになる。こいつはむしろ下僕なんだって。パーツを発見するたびこの有様だぜ?」
「さっ流石にそれは言い過ぎなんじゃ……」
 とスカートをくしゃくしゃに握りつつ、ふと思い当たる節があってハルは口を噤んだ。

 そう言えば…。
 耳ばかりしつこくいじられる時があったり。
 唇と舌に執心する日があったり。
 隼人さんは気まぐれで意地悪だから、気にしないようにしていた。

「ハルのDNAが完璧で、天真爛漫な性格はデータ化したら過去の偉人と似たパターンで、ハルはとにかく綺麗で利口で、癪だから本人には絶対に教えねえけど、とさっきまで煩かったんだぜ。なあ、マスターも聞いてたよな?」
 いつからいたんだとぎょっとすることに、ほの暗いカウンター奥から店主とみられる柔和な男性がにこにこ顔で現れ、頷いてみせる。
「はい。山本さんがいない日でも、よく飲みに来て私にも教えてくれましたよ。これ以上出ないと思ったら、まだまだ新しい発見があって、こいつ何なんだくそったれと日毎思ってらっしゃるとか……」
「あ――う、えっとぉ」
 何だこれ、この状況。ハルの頬が熱すぎて目玉焼きでも焼けそうだ。ここへ来ての第三者とか、やめて欲しい。
「だからな、ハル。「愛でてくれるひと」っていうのはやっぱり――この男しかいないんじゃね?」
 お前がいかに可愛がられてるか、分からない訳じゃねえだろ?と山本がハルの「ポムグラニット」を見つめて呟いた。
 ハルは視線を彷徨わせたが、結局は山本武にひたりと目と目を合わせる。
「じゃあ、……ハルは、好かれてるんです、かね」
 声が蚊の鳴くようなものになってしまったが、山本はニカッと笑みを深くした。
「馬鹿だな、愛されてんだよ。こいつの意地っ張りも悪りーけど、言わせてもらえばお前のニブさも凶悪だったぜ?大学時代、合コン二十回連続で邪魔されたときも、示し合わせたみたいに偶然装って休日に外に連れ回されてもお前って全然気づかねえんだもんな」
「ま、またその話ですか。山本さん、ずいっぶんお詳しいんですね?」
 その件に関しては何度もあてこすられている。
 実は、大学生の頃はまだ獄寺の事を嫌っていたハルである。当時はどうしてこんなにも頻繁に現れるのだろう、絡まれるのだろうとむしろ中学時代よりも噛みついていた。
 そんな二人の関係が変わったのはいつからだったか……。

 何かのタイミングで、突然「好きだ」と言われてキスをされた時?
 そのままなし崩しに初めて躰を重ねた際、乱暴にされるどころかガラス細工のように丁寧に扱われた時?

 むっとしながら山本武を睨むものの、全く照れ隠しであった。相手もそれを分かっているようで、またしてもぽんぽん頭を叩いてくる。
「だからな、つまり。おめでとう、ハル」
「う……。ありがとう、ございます」
 同い年なのに、今では何故か兄的存在なこの男性を、ハルはとても大すきだったのではにかんで答えた。
「ハルの為に、敵をとってくれたんですね」
「この先お前の家出が減らなかったら、獄寺が可哀想だからな。毎回死んだ魚の目とかしてるし」
 あれは結構悲惨だぜ?面白いけどな、などと言うのでついつい微笑んでしまう。
 ハルはいい感じで、自分の胸の鼓動と付き合った。あんなに意地悪なのに、愛情表現はしっかりしてくる獄寺のことをさほど心配してわけではないのだが、少なくとも気持ちが綺麗に着地した。
(女王ではないですけどね……)
 指先までピンクに色づいた躰で、ぐったり寝こけている婚約者へとそっと近づく。
 ――獄寺隼人。
 出会った当初から嫌われていて、好かれるなんて夢にも思わなかった相手。好きになるとも思わなかった。
「獄寺さん、帰りましょう」
 声をかけ、揺さぶったら形のいい眉をひそめ、男がぼんやり瞼を開けた。
「……ハル」
「はい、ハルですよ。迎えに来ました。一緒に帰りましょうね」
 にっこり笑って顔を覗き込めば、唐突に腕を引っ張られる。

「はひっ……」
 バランスを崩したハルの細腰に腕が回され、そのままぎゅうっと胸に頬を押し付けられた。
 むにゅ、と柔肉の潰れる音がする。

「は。柔っけぇ。……完璧だなこれ」
「――は?はははやとさ……」
「俺が育てた、ここがいちばん……」
「ちょっ……や、」
「やっぱ、イイ」

 中学時代から最も成長を遂げた膨らみに、自宅にいるような気軽さで片手を当てられた。というか、揉まれた。
 腰をホールドされているので逃げられない。
 指が埋もれる光景に、山本とマスターも流石に雄としてじっと見つめている――のを感じ取って、ハル、は。
 真っ赤に逆上して。

「はやとさんのクソばかエロ男っっーーー!!!」

 強烈なビンタを施し、脱兎のように店から逃げ出した。


 カランカランとドアの鈴が鳴り止まる頃、頬を押さえた獄寺が寝ぼけて首を傾げる中、山本が呟いた。

「どうせなら、そこもさっさと数値化してくれよって話だよな」

「――しっ」

 マスターが慌てて口を塞いだのである。








ポムグラニットの彼女。/2015.10.28







*あとがき*

こんにちは鈴木唄と申します。
獄ハル話書いてもUPするような場所がない…(自サイト、バナー動物園みたくなってるし…ジャングルなの?)と憂えて、
咏さんにお願いしたら快く引き受けて下さいましたヽ(´▽`)/
気力があればいつか自サイトでも載せたいくらい久々に楽しんで書きました。



update : 2015.11.14